2020年5月5日火曜日

調と性格: 導入編 (2019年10月8日起草、2020年5月3日移植)

調と性格 (Key and Character, Characteristics of Musical Keys): 導入編
2019年10月8日起草、自身のWordPress.com下ブログより2020年5月3日移植&調整

 調 key と調性 tonality *1 は多くの音楽の測る基準として、相対音感のある現代人の内的な部分で作用している。これは10歳以下の場合もそうであろう。またしかし、音楽批評や作曲に長けている人でないと、この概念を説明できなくもある。調の名は主音 tonic に依拠し、この主音はフレーズの1小節目の冒頭に表れるなど曲の調性を決定づけるもの(主音に加え全音階 diatonic scale に沿った音程 interval の音高 pitch を持つ)である。調性については、調と主音が何であるかを問わず、一定範囲のノート=拍 notes の音高が一定の関係性を示すことによって仮想される *2



from enwiki: Andalusian cadence

 一般にいう「コード進行 chord progression」に見られる、個別楽曲の展開は和声学の領分だが、和声 harmony・コード進行を構成している和音・コード chord の基礎の決定に調があることになる。譬えると、任意の進行が白黒濃淡である状態に対して調が具体的なコードで色付けすること coloring と私は考える。任意の進行の例は、i → VII → VI → V7(これは度数表記 degree。iは小文字であるから短調 minor を表す。大文字は長調 major。enwiki: Roman numeral analysisを参照)であり、これにAmという調を定義すると、Am → G → F → E7という具体的なコードの進行になる。または、既成の楽曲を構成するコードとその進行が色の付いた絵(or写真)であって、理論家が白黒濃淡のモノクロームに脱色した結果としての進行があるとも思う。これは筆者のカラーリングモデルの説明 *3 が別に必要なため、ここで詳述しない。



harmony, chord progression, degree, key signatures, chords

coloring, colouring, decoloring, decolouring

 調に関して、その性格 *4 をシャルパンティエ、マッテゾンらが述べていたという日本語版Wikipediaの情報を出発点とし、私が調査したところ、典拠が見当たったことを報告する。そして、参考のために日本語訳を私の方で行ったので、紹介する。著者はクリスティアン・シューバルト Christian Schubart (1739-1791)、 シャルパンティエ Charpentier (1643-1704)、マッテゾン Mattheson (1681-1764) らである。現代の音楽理論・音楽論・音楽学・認知音楽学の参考にしたい。

クリスティアン・シューバルト 述 Ideen zu einer Ästhetik der Tonkunst (1784–85; ed. by his son, Ludwig Schubart, Vienna, 1806) *5

シャルパンティエ 述 Les Règles de Composition (c. 1682) *6

マッテゾン 述 Das neueröffnete Orchestre (Hamburg, 1713)

※以上は2019年10月8日の調査の概要である。翻訳コンテンツを随時、公開するつもりである。文献それぞれのために、別途、記事として作成し、最終的に3つのコンテンツの比較の表でも作ってみよう。

 以上のように調とその性格が、過去の音楽理論家によって説明されていることが分かる。まず、現代人がこれを自己判断するためには、当時の調律 tuning についても検証した方がよい。周波数で数量化されたピッチの基準音は現代でA (A4) = 440 Hzであり、十二平均律を用いるが、過去において、バロック期 Baroque Era の一例にはA = 415 Hzがあり、現代の440 Hz + 十二平均律にとってちょうど半音(短2度)低い、というものなどがある *7。検証の後、彼らの説明が、彼らの感性に適っているものとして、どれほど普遍的な印象に適合するか、判断してみたい。彼らの場合は、実際の楽器ごとにある調の得意・不得意による楽曲を構成する楽器の偏りが、彼らの感性に影響を与えた可能性(理論上そうだが彼らが調の性格を自己判断する際にどういう手法を用いたか言及しているかどうか)も考慮された方がよい。

 簡潔に、私の1曲を例示してみよう。"At the End, a Star Falls"はカノン進行のアレンジを伴った和声を持つが、その調はF# major, つまり嬰ヘ長調=変ト長調である。これはドイツ語だとGes-Durである。シューバルト説は「私のその曲への思いにかなり近かろう」。シャルパンティエ説はこの調の言及なし。マッテゾン説はこの調の言及なし。*8 好きな曲の調を知り、上記の説明と照らし合わせながら聴くと、発見があるかもしれない。



Notes
*1… 任意の調が何であれ、その特徴を保つことを調性"tonality"と呼ぶが、現代日本では調の具体的な調の伴った状態のことを調性と呼ぶ例が多い(当記事Further reading節に載るページ2つに至っては調を調性と呼んでいるように見える)。私は概念的に区別している。客観的な説明としてはenwiki: Tonalityに多義的なものとして8つ示される (その出典はHyer, Brian. 2001. The New Grove Dictionary of Music and Musicians, second edition. という辞書の中の項目という。7つめに"keyness"という用語・造語?の導入もある)。なお、英語の接尾辞-ityと語形で対応するフランス語の"tonalité"(トナリテ)については、単に「調」を意味するためにも用いられて他にそのような言葉が存在しないので、先の括弧注釈に示す日本での用法はもしかするとフランス語に端を発するか。イタリア語"tonalità"(トナリタorトナリター。接尾辞-itàは最後の音節にアクセントがある)もフランス語と同様である(調の意味も調性の意味もある; tonalità maggiore と言えば長調を意味するなど it, fr)。ドイツ語に関しては"Tonart"と"Tonalität"で区別する。クラシックの音楽がフランスやイタリアやドイツ(語圏)よりも後から発達した英語圏では合理的な区分のための名称が定着しやすかったか。
*2… 8つ示される3つめ"Contrast with modal and atonal systems"では、歴史経緯による「調性音楽」が示される。20世紀以降に旧来の音楽の制限を厭う音楽家や実験的な音楽家が無調音楽を追求した(早い例ではフランツ・リスト1885年作の「Bagatelle sans tonalité 無調のバガテル」があるが隆盛はc. 1910から)ことと対比してクラシック音楽における17世紀-20世紀のいくらかの音楽が調性音楽であるとする。また、古代ギリシャ音楽やインドの音楽やいくらかの民族音楽や17世紀以前の教会音楽が「旋法=モード mode・モーダル modal」(e.g. フリギア旋法, ラーガ, 教会旋法) によるものという。Wikidataで英語版記事に結び付けられた日本版Wikipedia記事「調性音楽」も、本当は「17世紀-20世紀のいくらかの音楽」という狭義の調性音楽として見られるべきである。先にユーモアの一種で「私が小学生の頃に作曲しても、意識せずに無調音楽 atonal music, atonality となる」と書かれたことも、学問としては修正されるべきである。狭義の調性音楽でない旋法 modal を調性に含める向き(8つのうち1つめ"Systematic organization")もあり、これは今までの本文にいう調性の定義にごく近い。
*3… 仮説としては [A, A#, B, C... G#] という一般的な音階を構成するピッチ=音高12個を色の波長のスペクトル [赤 appr. 750 nm ないし紫 appr. 400 nm] (e.g. 虹) に重ねる。なおかつ明暗の次元を設け、長調と短調とを対置する。こうした時に、イ長調 A major key が明るい赤、イ短調が暗い赤、ホ長調がシアンor水色、ト長調が明るい紫、などとなる想定である。調 key のみならず、和音 chord に関しても適用されるべきかは未確定であるし、逆に、和音の構成音の関係(e.g. 調の長3度の音が主音である平行調)を考慮した色のバランスの方が一般的なコード進行を構成するコード=和音の親和性を示すこともできる。このカラーリングモデルの事柄は音の視覚的例示の科学的方法の案に過ぎなくて私も漠然と説明するに過ぎない。当記事では、「何となく色で区別できそう」という実用の範疇から、過度に精密なものとして行わないでおいた。精密なものとは、個々で具体的な数理に依拠してデジタルな色を同定すること(e.g. 明るい赤→RGB 255, 64, 64 = #FF4040、暗い赤→RGB 204, 16, 16 = #CC1010)である。この方法だと色彩の認知に関する人間的な性質を軽視することになるので、直観的に識別しやすくない部分があると思う。識別のしやすさや実用性を重視するならば、調ごとに用いられる一般的な和音にのみ相対的な色を指定することも可能である。
*4… 訳語。私はこの脈絡での英単語"character"を「印象」と翻訳したが、一般には「性格」というので、そう変更した。"characteristics"によせて「特徴」や「特性」とも考えられる。
*5… WW2以降に性格説の部分が Rita Steblin によって英訳されて A History of Key Characteristics in the Eighteenth and Early Nineteenth Centurie に載るという。
*6… WW2以降に英語訳 M.-A. Charpentier's "Règles de Composition" が作られた (1967 Lillian M. Ruff) そうだが詳細不明。
*7… 十二平均律は"twelve-tone equal temperament"であり"12-TET"などともいう。いわゆる「音律」の一種であるが、他の音律には音の周波数の比(ratio, 音楽家は振動比とも呼ぶ)を乗根(十二平均律ならば2の12乗根。440 HzであるA4を1と仮定してA#4が12乗が2 = A5になるような乗根でありA#4の実数はAの1.059463...倍 = 466.1637... Hz)で分けるような"temperament" (ラテン語の動詞temperoから派生。正確に分割するといった意味。時間を意味するtempusが更なる起源) 以外にも、「ピタゴラス音律 Pythagorean tuning」や「純正律 just intonation」といったものがあるが、時代・地域・音楽家ごとに何を用いていたか私はまだ詳しくない。バロック期にどういう調律がされていたかは、バッハ J. S. Bach が平均律を示唆するような名称の作品集を著しているものの、事実としては定かでない(現代にも音楽理論家がこのテーマの研究を続けていて仮説が多く存在する)。バロック期に音楽は、器楽も数理方面も様々な発展が見られるので、個人的には多様であったろうと思う。あえて言うと、十二平均律は近代的に合理的な香りがある。
*8… 他に有るところを探し、ヘルムホルツ Hermann von Helmholtz (1821-1892) という者の著述 Tonempfindungen  (英語の一文献 p. 551モンテネグロ・セルビア語の一文献 p. 84を閲覧;ドイツ語の原著3つの版ではどこか不明) を見た。嬰ヘ長調と変ト長調とのどちらもが少し異なって言及されている(十二平均律とは限らない?)が、大まかに私が捉えてその説は「私のその曲への思いに割と近かろう」。彼は19世紀中葉に活躍した人物であって私が過去記事でも言及したようなヤングさんの如き物理学者の顔を持つため、かなり科学的な見方をするはずと思ってしっかりと前後の文脈を見ると、やはり懐疑的な立場でこれが書かれたようである。以下は、彼が載せた調の性格の表"this Table"の後にある記述の引用:

In reading over this Table it is impossible not to feel that the character, often contradictory, arises from the reminiscence of pieces of music in those keys, as the author indeed admits (ib. p. 22). Such a distinction as that made between F♯ and G♭, which, in equal temperament, is a mere matter of notation, but is here made to yield incompatible results, shews that the writer was thinking more of treatment than of actual sound. This is confirmed by his saying (ib. p. 26) : ‘We shall often find that the general character of a key may be changed by peculiarities and idiosyncrasies of the composer ; and thus a key may appear to possess a cheerful character in the hands of one writer, whilst another composer infuses into it a melancholy expression ; all depends on the treatment, on the individual feeling of the composer, and on his acute understanding of the characteristic qualities of the key he employs.’ The writer then goes on to consider the effect of rhythm and time, and the different characters which he assigns to their varieties, independently of the key employed, clash so much with the preceding that it is difficult to know what is supposed to belong to one and what to the other. 



Misc
 嬰ホ長調 = E# major などは theoretical key, impossible key と呼ばれる。理論調、理論上の調、無理調、不可能調とでも翻訳しようか。この話題に英語版Wikipedia記事があっても、日本語版は無い。

 当記事で2番目の画像に「嬰ニ長調 = D# major」を載せようとしたが、一旦作成後にそれは楽譜において用いられないものと分かった。よって、同名異音 (enharmonic) とさえされず唯一の正しい名とみなされる「変ホ長調 = E♭ major」に変えた。

 なお、慣例でハッシュまたはナンバー記号 (hash or number sign) # (U+0023) をシャープのために用いた。正しくは ♯ (U+266F) である。フラットは ♭ (U+266D) でよいが、世間の一部では b (Bの小文字) を代用する場合が有る。



Further reading







起草日:2019年10月8日

当記事は外部の名義で投稿するために起草された。
具体的な方式は、Automattic社によるブログホスティングサービスの WordPress.com で供給されるブログ(横野真史の活動と無関係のためリンクは付けない)での投稿である。
翌月初頭に投稿できる状態であったが、別の条件から投稿を保留していた。
今までに外部の名義で投稿することなく(一瞬だけ投稿したのち下書きに戻す?)、2020年3月には横野真史名義で投稿する考えを固めた。

2020年5月3日から移植して調整(適正化。加えて小規模な修正や更新)を始めた。
当時のスタイルは、この公開される記事においてもほとんど継続させることにしたが、WordPress.com での「ブロック block」機能によるHTML書式のうちブロック標識コメントアウト要素 (e.g. 段落 paragraph のための <!-- wp:paragraph --> … <!-- /wp:paragraph -->) は除去してある。
当記事の一部に見られるよう、調と性格の本題としての歴史的文献からの翻訳文を投稿する予定がある。

当記事のカラーリングモデルと光のスペクトルについては、過去記事2020-02-05にも説明がある。
右画像は高名な科学者・ニュートン説およびその原著における図を私が着色したものであるが、彼の説以外の提示もある。

2020年5月2日土曜日

2020年4月中の日記メモ

本文をコメントアウトで公開します。ソースからご覧ください。ご不便をおかけします。これで精一杯でございます。