ここでは19世紀以降のもののみを挙げる。
「〇〇語由来」とは、そのように直ちに理解しうる語形がローマ字(ラテン文字)で表記されていることを根拠とする。
「ニホニウム」"nihonium" は、漢字の「日本」の音読みである Nihon (正確には慣用音 kan'yō)から付けられている。
漢字の「日本」を Nihon とラテン文字に音写することは、ただ日本語 (Modern Japanese) にのみありえるものであり、数ある中国言語(Sino-Tibetan, Sinitic, Chinese languages: 中国語普通話=北京語、広東語、閩南語…)のいずれにも相当しないし、朝鮮語やベトナム語の漢字の語句にも似ないし、中国大陸の中古音 (Middle Chinese) でもありえない、と理解できる。
反例で「ベンゼン」"benzene"(「安息香酸」"benzoic acid"にも)というものがあり、おおもとはアラビア語で「ジャワの乳香 لُبَان جَاوِيّ 」という意味であったようである(ローマ字表記の lubān jāwiyy にある"lu"相当の部分の発音は、イタリア語またはそれに伝えた他のロマンス語にとって"la"のように l で始まる定冠詞と混同されて欠落したという)。
これは古くヨーロッパの言語で借用されて変化を経ており、またアラビア語話者には語源がアラビア語のそのような意味であると直感的に理解できない。
同じ語幹または形態素 benz- を持つ「ベンゾイン」"benzoin"の化学物質でない方の意味は「安息香」であるが、アラビア語のウィキペディアで: لُبّان جاويّ (في الحقيقة هو من سومطرة) 意味:ジャワの乳香、実際にはスマトラ(スマトラ島)から;と紹介されていた。
話は変わるが、生物学は、二名法の祖(似たようなシステムは天文学にも以前からあるが)であるリンネさんによる命名にさえ種小名"mume", 属名"Ginkgo"という当時の日本語理解や発音由来の名前が付けられており、これは構造的に化学にも関わるとはいえ、当記事では問題外にする。
生物学の学名には地名と人名由来の名前が多いように、鉱石 (mineral, minerals) の名前にも地名由来が多い (e.g., 「手稲石」"teineite", tellurium を多く含む) ので、これらは掲載されない。
先述のベリルの元のインド言語は鉱石の名前だったとしても、後で元素の名前になっているように、元素などの物質は掲載対象であることも注意されたい。
また、医薬品に代表される製品名は、販売者の国の言語と結びつきが強く、物質名として国際的に/学術的に言われるものでないので、製品名も、当然、掲載されない。
本題に戻ろう。
「ウルシオール」"urushiol",
「ヒノキチオール」 "hinokitiol",
「ヒノキニン」 "hinokinin",
「ホノキオール」"honokiol" (ホオノキ Magnolia obovata より、ヒノキオールは不明),
「シキミ酸」"shikimic acid",
「ニホニウム」"nihonium" (元素記号: Nh),
「ジョロウグモ毒」"JSTX" "joro spider toxin" (英語版Wikipedia記事名は"joro toxin"とする),
「シコッシジン(シコシジン、シコチジン、cc二重綴字の英語読みに似せるとシコクシジン?)」"shikoccidin" (ウィキペディア記事の無い例、ジテルペンというC20のテルペン類の一種;ヤマハッカ属のミヤマヒキオコシ Isodin shikokianus, シノニム Rabdosia shikokiana の種小名より),
「ショウガオール」"shogaol" (cf., 「ギンゲロール、ジンゲロール 」"gingerol"),
「シオノン」"shionone",
「*ショーワセン」"showacene" (Botryococcus braunii var. showa の変種の名より、同じ生物から単離される botryococcene ボツリオコッセン、ボトリオコッセンの一種とのこと;生物学に関わった昭和天皇の献名?炭化水素がらみで昭和シェル石油からの命名?),
「メイジコッセン」"meijicoccene" (カナ表記は唯一共立女子大学のサイトに載る、Botryococcus braunii の株Berkeleyから単離される botryococcene の一種とのこと;明治天皇の献名?研究者が明治大学に関連するのでそこからの命名?),
「シコニン」"shikonin" "shikonine" (ムラサキの根=紫根の読み「シコン、しこん」より),
「カメバニン」"kamebanin" (カメバヒキオコシ Isodon kameba or Plectranthus kameba より、ただし和名でいうヤマハッカ属に相当するのか定かでない;一論文によるとエンメイソウ=ヤマハッカ属のヒキオコシRabdosia japonica などから単離されるとのこと;同様のジテルペン、ジテルペノイド系物質の名前として kamebacetal, kamebakaurin, kamebakaurinin などが見られた),
「(右記参照)」"kadsurin" (Yang, Hattori, et al. 1992 論文以外ではほぼ分離や単離の報告が無い、化学での hapax legomenon?日本語文献ナシ、慣用的にカズリンと表記できる…後で調べると「カドスリン」とされる;植物としてはサネカズラ属 Kadsura があるがその種 Kadsura heteroclita は一般的に見られない名前で synonym は K. polysperma など),
「カサノシン」"kasanosin" (2008年の木村らによる英語文献で初めて報告されたかもしれない、Talaromyces属の種 sp. から単離されるという物質である。平成20年という同じ年の日本語文献では採取地に葛西臨海公園 Kasai... が挙げられる。後年の外国人著者英語文献でも葛西臨海公園から採取された生物から単離される同じ旨が載っている),
「キョートルフィン」"kyotorphin",
「リシチン」"rishitin" (ジャガイモ栽培品種「リシリ」が由来とされる。そのまた由来が何かは不明だが、日本の地名「利尻(利尻島)」からであると私は思う),
「ダイジン」"daidzin",
「ダイゼイン」"daidzein",
「ナスニン」"nasunin",
「ギンコール酸」"ginkgolic acid" (イチョウ、ギンナン Ginkgo biloba の葉に含まれ、その植物の名に由来する;銀杏の音読みの一種「ぎんきょう」 ginkyō を17世紀に日本に長期滞在した経験のあるケンペル Engelbert Kaempfer が ginkgo と綴り、18世紀に学者リンネ Linnaeus が採用してこの綴りが定着した。参考までに、古英語 Old English でも硬口蓋接近音または硬口蓋化子音の音素 /j/ を y ではなく g で綴ることがあったが直接そういう古典語の知識がケンペルにあったのかは不明),
「オカダ酸」"okadaic acid",
「コージビオース」"kojibiose",
「サンショオール」"sanshool",
化学的な物質とは少し違う例(IUPAC名を与えることができない)
「ナットキナーゼ」"nattokinase"(比較:日本の大阪府堺市から発見された微生物 Ideonella sakaiensis が持つ酵素 PETase ペターゼ),
「ピカチュリン」"pikachurin" (タンパク質、遺伝子の一つ; EGFLAM とも呼ばれる),
「シガトキシン」"shigatoxin" (タンパク質毒素の一つ;ベロ毒素、志賀毒素とも呼ばれる。医学者、細菌学者の志賀潔より。cf., 赤痢菌 Shigella dysenteriae 種形容語の語形がラテン語での複数形に見えるが血清型が15あるということから来るものか、謎;他は S. flexneri など -i で終わっていて男性複数形みたいな属格みたいな不安定さ;この比較には Escherichia flexneri, E. marmotae など同様の真正細菌にある),
n
冒頭に記そうと思ったが、雑多なのでやめた文章
インド系の語彙では、ロシアのメンデレーエフによる、サンスクリットからの「エカ」という接頭辞が例として考えられるが、他はベンゼンと同じような反例や19世紀以前の例が多くを占めると思う。
その反例の一つは、「ベリリウム」"beryllium", 「ベリル」"beryl"のおおもとに当たる वैडूर्य (vaiḍūrya, サンスクリットでの語形) である(日本でも漢訳仏典を経て昔からおなじみ、瑠璃や毘瑠璃=吠瑠璃=琉璃=流離王にも見られる任意の中期インド言語 MIA類より)。
インド亜大陸の言語はドラヴィダ語族など系統の異なる言語が古くから混ざっているなどで系統の推定が難しいものでもあるし、サンスクリットとパーニニ、パーリ語とプラークリット類であるとかの人物ベースや典籍ベース(それらもまた実在性や系年などの問題がある)の判断が強いられる。
日本に近い、隣国である中国大陸、朝鮮半島の諸国は?→ノーコメント、ただ今後は増えるのかもね。
小類聚「生物学で見られる名前の問題」
生物学・・・絵の練習記事に断片的な言及がある他に一つの過去記事(学術的メモ帳2015年1月16日)の2018年8月9日追記にもある。ブログで執筆された範疇には見つけづらい。個人的な執筆や調査の記憶は外部サイトでの投稿にも多い。植物や動物の生態や分布はもちろん、社会科学とも関連して現代的な分布(園芸・ペット目的で移入された外来種と帰化)と生育環境に関してしっかりと把握する。日記メモにも虫や植物など身近なものが稀に記される。生物学の先鋭性は分子生物学 (molecular biology) にあって一般人には無理(空理)であるため、各々の身近な範囲で民間的な実用を考えたい。植物の系統分類にAPG体系があり、そこで、例えば一般的なハスとスイレンとは形態や生態が類似するのに目 (もく order) レベルで分類が異なる。ハス科・ハス属・ハスのあるヤマモガシ目の他の科は木本(樹木の特徴の枝や幹がある)であってハスと著しく形態や生態が異なる。たとえハスとスイレンがDNA, 塩基配列・遺伝子レベルで異なることが精密な実験から立証されても、その技術の無い一般人の五感で知覚できない・推論が成立しない事柄である。なお、2017年に私は、パーリ仏典に基づいて古代インドのブタ (sūkara またはイノシシ varāha) とキノコ (ahicchattaka) に関する考証をした。 https://lesbophilia.blogspot.com/2017/12/sukara-maddava.html 萌えの典籍に「鸚鵡」という名の鳥を登場させる際にも「仏典で鸚鵡は緑色の外見だという傾向がある。オウムと読むが生物学の和名オウム科はインドに生息しない。架空であるかを問わず仏典の鸚鵡はそのモチーフとしてインドに生息する限りのインコ科に比定できる」という見解を注釈している。説明文より抜粋
—2019年6月23日投稿動画
他にリンネさんと天文学のチェコ学者の某甲についての文章もあったと記憶するが、見当たらない。
起草日:2021年6月29日
以前、私の投稿で多かった言語学の話題(比較言語学から認知言語学まで広すぎる分野をアレコレと行っていたこと)が、去年や今年には少量が含まれた記事が投稿されるに過ぎなかった。
これにしても、難しい内容でないし2016年ころに持っていたような知識の基盤と変わっていないが、言語学の話題が無いよりはよかろう。
日本語で「物質」として使われる単語を英語で言う場合に考えられる候補:material, matter, substanceの違いとは?インターネットで調べてみてね。
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よって、2019年5月12日からコメントを受け付けなくしました。
あしからず。
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