中古音・上古音は、おおよそ「バクスター・サガール(2014?)式 (BS式)」や「鄭張尚芳式(ZZ式)」であるか、それらを参考にした上での仮定表記や便宜的な簡略表記などがある。
まず「二重母音"ai"から母音エ"e"発音が発生することがある」という仮説から、漢字音の1モーラ化の例を取ろう。
「兄弟」は、「きょうだい(呉音)」とか「けいてい(漢音)」とかと読む熟語だが、前者で「弟」字は呉音かつ濁音(有声音)である。
「きょうだい」と読むときの「弟(だい)」は、提婆(だいば)のように、上代か古代の日本でD音(ダ行・有声歯茎破裂音)受容か?
その場合、弟子(でし)の弟(で)は「だい"dai"→で"de, dae"」という1モーラ化の例に当たる。
上に"de, dae"と綴った件は、「古代の日本語が八母音であった」とかという、「あいうえお"a i u e o, a e i o u"」よりも多いという学説を念頭に置いているが、こういった漢字音の1モーラ化について甲類の"e"とか乙類"e"とかという学説の存在を確認していない。
「ダイ→デ」といえば、朝鮮語の「現代(ヒョンデ・連濁)」とか「大韓民国(テハンミングク)・大洞江(テドンガン)」が連想される。
代・大などは、日本で「弟子の弟(で)」のような「デ・テ」と発音される語彙が見当たらないようでも、朝鮮半島で代・大の漢字音が伝わった当時の中国人は現代日本語と同じく「ダイ・タイ」に類する発音をしていたと考えてよい。
朝鮮語におけるこういった漢字音の表記に用いるハングルは、"ㅔ IPA表記の/e/"ではなく"ㅐ a+i = IPA表記の/ɛ/"であり、ハングル誕生以来、文字として明確な区別があるようである。
※なお、弟"je"は前者e音価のㅔを用いた제であり、下記の礼"rye>ye"はje音価のㅖを用いた례>예であるから、大대や海해などにあるa+i = /ɛ/という音価のㅐではなかったりする。
"-ai → e"他の日本漢字音の例として「礼・禮(呉音: らい)」がある(熟語は頂礼"ちょうらい"など)。
「礼」の草書体から、ひらがな「れ」が作られた。
地名の「波久礼(はぐれ)」や、人名の「稗田阿礼(ひえだ の あれ)」といった「れ」発音がある。
これらも当然「漢音: れい"rei"」の「い"-i"」が脱落したのではなく、「呉音: らい"rai"」が「れ"re, rae"」と1モーラ化したと、私が考えている。
うちマイナー地名の「波久礼(波久禮・破崩とも)」について興味を持ち、古事類苑のデータベースで武蔵国の記述など(具体的な位置関係が不明なので現在の大里郡・寄居町や男衾・榛沢に関する情報も)を探したが、名が見当たらなかった(秩父鉄道の駅設置に際して元々の表記で縁起の悪そうな「破崩」を万葉仮名っぽく改めたことで成立したものか)。
しかし、現代中国普通話ピンインは「弟・提・禮(代・大は日本の漢音・呉音を考慮すると系統が異なるので除く)」系統の漢字がみな「弟"di"」、「提"ti"」、「禮"li"」、「西"xi"」とあり、言語学者の中古音や上古音も"dei, di"のような"-ei, -i"ばかりであり、少なくとも"-ai"発音を確認できない。
「提」という字は、先に「提婆(だいば)」という語句を例に挙げたが、この元はサンスクリット語"deva (デーヴァ)"の音写であり、4世紀以前から、すでに「デ(デー)」発音に当てられている。
他の「提」を用いたサンスクリット語の音写語句としては「憂波提舍(うはだいしゃ・うばだいしゃ、提は帝・底を用いることもある)」であり、これもサンスクリット語"upadeśa (ウパデーシャ)"やパーリ語"upatissa (ウパティッサ)"を表す。
"ai"そのものが字音である漢字といえば、何よりも「愛」が浮かぶであろう。
あい・アイという発音は、現代日本の字音に限らず、中国普通話でも同様である。
"ai → e音"の例として、地名では「愛媛」や「愛知(えち・滋賀県の愛知郡や愛知川)」がある。
"e音"に類する発音は、呉語の"e"や、韓国語の"애, ae (2000年式・MR式)"である。
この「愛」はIPAなどの厳密なローマ字表記だと、単なる"ai"ではなく"ʔ"という声門破裂音の字を用いており、中古音・上古音で母音で始まるような字音のローマ字表記には、ほぼ必ず用いられている。
「愛」を例に、ざっと引用すると /ʔʌiH/, /ʔəiH/, /ʔɒiH/, /ʔɑ̆iH/ といった調子である(余談だが末尾の大文字Hは四声(トーン)を表す記号のうち、「去声(平仄では仄に含む)」を意味する・上声であれば大文字Xが用いられる)。
この"ai → e音"という音韻法則は、過去記事や独り言で多く語るよう、ギリシャ語・ラテン語・英語などの関係性にも同様に観られて世界の言語学者の常識とも言える。
ギリシャ語で"αι(アルファ・イオタ)"と綴った発音は、ラテン語で"Æ(合字), ae"となり、現代英語では余分な"a"の綴りを消しているわけだから、日本・朝鮮・西洋、場所を問わず同じ現象が発生していると見られる。
2014年に"pedia"というギリシャ語由来接尾辞について語ったことがある。
そこでは、ウィキペディア"wikipedia"でもペドフィリア"pedophilia"でも、"ped"の文字列がラテン語"paed"という語根に由来し、"paed"の元はギリシャ語"paideia, παιδεία"であると説明した。
ギリシャ語・ラテン語・英語は"pai → pae → pe"という綴り・発音(名と実)の変遷がある。
ついでに言えば、インド方面でもサンスクリット語の連声か何かの法則に"語尾a +語頭ī → e (長音)"という例がある(-a īśvara → -eśvaraという場合の例は観自在アヴァローキテーシュヴァラ・大自在マヘーシュヴァラ・世自在ローケーシュヴァラなど)。
サンスクリット語の同じような法則としては、"語尾ā + 語頭u → o (長音)"という例がある(大智度論の再建語の一例がマハープラジュニャーパーラミトーパデーシャ"-tā upa- → -topa- "という)。
サンスクリット語の連声とか、詩を唱える際などに発生するほか、単一の語句レベルではサンスクリット語に対するパーリ語などのプラークリットにも多い(ガウタマ→ゴータマなど)。
"au → o, ō"は日本の歴史的仮名遣い"あふ・あう→おう"や、ラテン語→英語の変遷(例はアウストラロピテクス・オーストラリアの差)にもあって、同じく世界の言語学者の常識と言える。
韻尾(後部音韻)省き(脱落・欠落)の例
功徳(くどく)、恭敬(くぎょう)という、2モーラ目が元・軟口蓋鼻音の漢字の1モーラ化・連濁発音の仏教用語がある。
「恭敬礼拝(くぎょう・らいはい)」の「恭(古代の音をkongと仮定してコウと片仮名にできる)」は二重母音が詰まって「く(前の件の要領でkou→ku)」と読むが、
しかも、「礼"呉音: rai" 拝"呉音: hai<φai"」などは「れへ"re he<φe"」という読み方をしない。
恭敬礼拝(くぎょう・らいはい)は、「恭(古代: kong 漢音: キョウ、呉音: ク)」の一字のみが現代でも1モーラ化の字音として伝わって読まれることとなる。
「礼(ライ→れ)」は、地名「波久礼(はぐれ)」などに残る字音であったが、「恭(く)」は地名で見かけづらいようである(かつての首都に恭仁京"くにきょう"というものがある)。
元・軟口蓋鼻音"ng, ŋ"の漢字が「ウ"u"」に変わり、更に二重母音が詰まって1モーラ化しても、恭敬(くぎょう)の「敬(キョウ)」や、功徳(くどく)の「徳(トク)」を濁音にする作用が残っている。
いいや、日本語で二重母音が詰まる以前に濁音化したものが、その形のまま残っているのであり、「恭・功」の1モーラ化した「元・軟口蓋鼻音たる"u"発音」に作用が残っているわけではない。
「ウ"u"」という母音は、「鼻母音」のように鼻音化しやすく、それが連濁の作用を持つ可能性もあるが、当初の日本人がその自然性でその都度、連濁発音をしていたと考えることに無理がある。
例の通り、字音の伝来当時の中国人による連濁(有声音化)の発音が残ったものと、見解を示す。
-ngに相当する韻尾が省かれる日本字音の法則を過去記事で説明した例↓
http://lesbophilia.blogspot.com/2017/05/blog-post_10.html#case3
http://lesbophilia.blogspot.com/2017/05/kana-transcripiton.html
※上代や平安・鎌倉時代など、どこまで同様であったかは、まだまだ文献の確認が必要かと思う。二番目のリンク先記事で「種種("すす"と綴られた)」や「衆生("すさう"と綴られた)」を語ったように、当時の熟語音読みの仮名遣いが可能な限り知られるとよい。拗音や濁音の表記が無い当時の字音が、当時のままと思われる状態で現代に伝えられている事実があるのだから。
起草日: 20170606
「礼」の草書体から、ひらがな「れ」が作られた。
地名の「波久礼(はぐれ)」や、人名の「稗田阿礼(ひえだ の あれ)」といった「れ」発音がある。
これらも当然「漢音: れい"rei"」の「い"-i"」が脱落したのではなく、「呉音: らい"rai"」が「れ"re, rae"」と1モーラ化したと、私が考えている。
うちマイナー地名の「波久礼(波久禮・破崩とも)」について興味を持ち、古事類苑のデータベースで武蔵国の記述など(具体的な位置関係が不明なので現在の大里郡・寄居町や男衾・榛沢に関する情報も)を探したが、名が見当たらなかった(秩父鉄道の駅設置に際して元々の表記で縁起の悪そうな「破崩」を万葉仮名っぽく改めたことで成立したものか)。
しかし、現代中国普通話ピンインは「弟・提・禮(代・大は日本の漢音・呉音を考慮すると系統が異なるので除く)」系統の漢字がみな「弟"di"」、「提"ti"」、「禮"li"」、「西"xi"」とあり、言語学者の中古音や上古音も"dei, di"のような"-ei, -i"ばかりであり、少なくとも"-ai"発音を確認できない。
「提」という字は、先に「提婆(だいば)」という語句を例に挙げたが、この元はサンスクリット語"deva (デーヴァ)"の音写であり、4世紀以前から、すでに「デ(デー)」発音に当てられている。
他の「提」を用いたサンスクリット語の音写語句としては「憂波提舍(うはだいしゃ・うばだいしゃ、提は帝・底を用いることもある)」であり、これもサンスクリット語"upadeśa (ウパデーシャ)"やパーリ語"upatissa (ウパティッサ)"を表す。
"ai"そのものが字音である漢字といえば、何よりも「愛」が浮かぶであろう。
あい・アイという発音は、現代日本の字音に限らず、中国普通話でも同様である。
"ai → e音"の例として、地名では「愛媛」や「愛知(えち・滋賀県の愛知郡や愛知川)」がある。
"e音"に類する発音は、呉語の"e"や、韓国語の"애, ae (2000年式・MR式)"である。
この「愛」はIPAなどの厳密なローマ字表記だと、単なる"ai"ではなく"ʔ"という声門破裂音の字を用いており、中古音・上古音で母音で始まるような字音のローマ字表記には、ほぼ必ず用いられている。
「愛」を例に、ざっと引用すると /ʔʌiH/, /ʔəiH/, /ʔɒiH/, /ʔɑ̆iH/ といった調子である(余談だが末尾の大文字Hは四声(トーン)を表す記号のうち、「去声(平仄では仄に含む)」を意味する・上声であれば大文字Xが用いられる)。
この"ai → e音"という音韻法則は、過去記事や独り言で多く語るよう、ギリシャ語・ラテン語・英語などの関係性にも同様に観られて世界の言語学者の常識とも言える。
ギリシャ語で"αι(アルファ・イオタ)"と綴った発音は、ラテン語で"Æ(合字), ae"となり、現代英語では余分な"a"の綴りを消しているわけだから、日本・朝鮮・西洋、場所を問わず同じ現象が発生していると見られる。
2014年に"pedia"というギリシャ語由来接尾辞について語ったことがある。
そこでは、ウィキペディア"wikipedia"でもペドフィリア"pedophilia"でも、"ped"の文字列がラテン語"paed"という語根に由来し、"paed"の元はギリシャ語"paideia, παιδεία"であると説明した。
ギリシャ語・ラテン語・英語は"pai → pae → pe"という綴り・発音(名と実)の変遷がある。
ついでに言えば、インド方面でもサンスクリット語の連声か何かの法則に"語尾a +語頭ī → e (長音)"という例がある(-a īśvara → -eśvaraという場合の例は観自在アヴァローキテーシュヴァラ・大自在マヘーシュヴァラ・世自在ローケーシュヴァラなど)。
サンスクリット語の同じような法則としては、"語尾ā + 語頭u → o (長音)"という例がある(大智度論の再建語の一例がマハープラジュニャーパーラミトーパデーシャ"-tā upa- → -topa- "という)。
サンスクリット語の連声とか、詩を唱える際などに発生するほか、単一の語句レベルではサンスクリット語に対するパーリ語などのプラークリットにも多い(ガウタマ→ゴータマなど)。
"au → o, ō"は日本の歴史的仮名遣い"あふ・あう→おう"や、ラテン語→英語の変遷(例はアウストラロピテクス・オーストラリアの差)にもあって、同じく世界の言語学者の常識と言える。
韻尾(後部音韻)省き(脱落・欠落)の例
功徳(くどく)、恭敬(くぎょう)という、2モーラ目が元・軟口蓋鼻音の漢字の1モーラ化・連濁発音の仏教用語がある。
「恭敬礼拝(くぎょう・らいはい)」の「恭(古代の音をkongと仮定してコウと片仮名にできる)」は二重母音が詰まって「く(前の件の要領でkou→ku)」と読むが、
しかも、「礼"呉音: rai" 拝"呉音: hai<φai"」などは「れへ"re he<φe"」という読み方をしない。
恭敬礼拝(くぎょう・らいはい)は、「恭(古代: kong 漢音: キョウ、呉音: ク)」の一字のみが現代でも1モーラ化の字音として伝わって読まれることとなる。
「礼(ライ→れ)」は、地名「波久礼(はぐれ)」などに残る字音であったが、「恭(く)」は地名で見かけづらいようである(かつての首都に恭仁京"くにきょう"というものがある)。
元・軟口蓋鼻音"ng, ŋ"の漢字が「ウ"u"」に変わり、更に二重母音が詰まって1モーラ化しても、恭敬(くぎょう)の「敬(キョウ)」や、功徳(くどく)の「徳(トク)」を濁音にする作用が残っている。
いいや、日本語で二重母音が詰まる以前に濁音化したものが、その形のまま残っているのであり、「恭・功」の1モーラ化した「元・軟口蓋鼻音たる"u"発音」に作用が残っているわけではない。
「ウ"u"」という母音は、「鼻母音」のように鼻音化しやすく、それが連濁の作用を持つ可能性もあるが、当初の日本人がその自然性でその都度、連濁発音をしていたと考えることに無理がある。
例の通り、字音の伝来当時の中国人による連濁(有声音化)の発音が残ったものと、見解を示す。
-ngに相当する韻尾が省かれる日本字音の法則を過去記事で説明した例↓
http://lesbophilia.blogspot.com/2017/05/blog-post_10.html#case3
http://lesbophilia.blogspot.com/2017/05/kana-transcripiton.html
※上代や平安・鎌倉時代など、どこまで同様であったかは、まだまだ文献の確認が必要かと思う。二番目のリンク先記事で「種種("すす"と綴られた)」や「衆生("すさう"と綴られた)」を語ったように、当時の熟語音読みの仮名遣いが可能な限り知られるとよい。拗音や濁音の表記が無い当時の字音が、当時のままと思われる状態で現代に伝えられている事実があるのだから。
起草日: 20170606
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しかし、当ブログ開設以来5年間に一度もそのような利用がされませんでした (e.g. article-20170125, article-20170315, article-20190406)。
よって、2019年5月12日からコメントを受け付けなくしました。
あしからず。
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