2019年8月10日土曜日

言語における科学性の多面的な説明

「言語における科学性」の話題は本家ブログ2019年5月16日投稿記事などに示された。

筆者は基本的に、言語を人文科学の研究対象とし、言語学を人文科学の範囲に置いている。
しかし、言語の何らかの側面を何らかの方法で研究するかによっては、言語学が社会科学にも自然科学にも形式科学にも認知科学にもなるという柔軟な判断もできる。

人文科学に分類されるべき「言語学 (linguistics)」の歴史を顧みよう。
ヨーロッパでも日本でも広い文明の範囲の古語・古典が端緒だったと思ってよい。
ヨーロッパにとって、古代ギリシャ語・古典ラテン語はもちろん、ヨーロッパ各地の古語(古フランス語・ゲルマン語派の古ノルド語・古英語など)や当時における近代語・現代語も考えられる。
ヨーロッパでは、彼らの言語とインド系の言語との大きな共通性が見いだされて以降の18~20世紀で、基本的に、古文献・古典から古語の特徴を集めたり(文献学 philology の領域に重なる)、次第に世界各地の現代的な言語(自然言語・口語・方言)をフィールドワークなどで集めるようなこともされ、それらが言語学の「基礎研究 (basic research)」ともいえる行為であったろう。
そこから歴史言語学のように一定の「言語」動詞をグループにした「語派」と、可能な限り巨大なまとまりにした「語族」と、それら大小の言語の「祖語」を想定することが主要な研究であった(代表的にはインド・ヨーロッパ祖語・印欧祖語がある)。

日本にとっての漢語・梵語と上代日本語が、その古代ギリシャ語・古典ラテン語・ヨーロッパ各地の古語に類する。
ヨーロッパ各地の民族が彼ら自身のアイデンティティを確立する動向の同時期~その100年前=江戸時代中期・後期に、不干渉ながら日本で国学 (Kokugaku) の発展があった。
漢語・梵語(蘭学系以外では困難だが稀に西洋言語)は可能な限りに学ばれ、日本語の相対的な特徴を認知したり、古文献が万葉仮名で記されている制約下でいわゆる「内的再構」に類する作業が上代日本語のために行われた。
これには哲学的な思索が付随しており、神代の言葉(ことのは)を推し量りもした。
明治時代以降は西洋の人文学・人文科学が日本にも導入されるようになる。
日本についての説明は、当記事で必要な説明をしたが、具体的にどんな学者がいたかなどは2019-05-19記事やインターネット上の他サイトを見ればよい。

現代では、そういった人文科学に分類しうる言語学の歴史的な経緯の結果に様々な「応用分野 (applied-)」ともいえる研究や、その自覚がされている。
ちなみに、欧米では基本的に言語学を社会科学 (social science) と扱っている。

言語学の、人文科学 (human science, humanities) 以外の科学分野と近い点を端的に示そう。

形式科学 (formal science) …理論や規範に適う文法、一応の道理としての言語。数学的・論理学的 (mathematical, mathematics; logical, logic) な特徴の追求。応用として人工言語やプログラミング言語も有りえる。言語学は単なる形式科学でないが、もし形式科学の性質を強めれば、生身の人間の実用に適さない「形式言語。0, 1のような数字の羅列で示される、多義語や同音異義語や文法の混同が存在しない絶対性による言語」ができる。またはユークリッド幾何学の「幅の無い線(長さ無限 ∞ 究極の1または0の直線=一次元 ユークリッド原論 Στοιχεία に云くΓραμμὴ δὲ μῆκος ἀπλατές.)」と同じような「音も文字も概念も無い言語」ができる。それでは極端なのでまだ一般的な言語学になじんだ例を挙げる必要もある。現代言語学で文法を考察する際の構文木 (parse tree 解析木) を用いた分析 (e.g. IC分析 immediate constituent analysis, 生成文法 generative grammar) は、これも形式科学の特徴を持つ。

認知科学 (coginitive science) …人によって使用される言語(自然言語)の文法・語彙・音韻が状況(知覚とそれが脳で処理されること・恣意的な取捨選択や推定や譬喩・比喩の行為など)によって固定的でない前提に基づいた研究。それは主観性と一括りにできるが、使用能力の制約なども加味する場合は主観性に限られない。美術や音楽などの芸術分野は、外界の知覚や他者との認識の共有に基づくとしても主観性が重要である点で、自然言語の刹那的(その場限り)・主観的な側面に適合する(私は「共通主観性」に関連して音楽作詞に方法論を応用して「楽語共調理論」を作った。リンク先記事では美術の表現主義 expressionism や実験音楽 experimental music などに疑問を呈してもいる)。認知言語学に似た神経言語学は神経科学(neuroscience, brain science 日本で脳科学として人気)に関連するが、言語を手段として研究される脳機能の検証・実験・解明は、言語学が研究対象とする事物でない。

社会科学 (social science) …言語の社会的・現代的な使用の分析(流行語やスラングは扱いづらい)。商業や経済(マーケティング)など多分野での応用。民族 (ethnic group) と言語の関係。言語政策 (language policy) に代表される、政治 (politics) と言語の関係。各地の公用語教育(national language, 事実上のもの de facto を含む)・外国語教育のような言語教育での応用。多言語と共生できる文明の可能性の追求。

自然科学 (natural science) …音声学における解剖学・音響学の応用。形態論 (morphology) における複合語 (compound) の特徴は、化学 (chemistry) の化学式・化合物のようである(複合語や品詞の形態素 morpheme に関しては原子や分子や素粒子などよりも素数や素因数のように数学に似るように感じる。ただし手 te という日本語は手綱 tazuna, taduna のtaがあるように古代日本語での構成 ta + i = te2 て乙類で化学式に似る。形態素も音素 phoneme で構成されることが音声言語には必須)。形態論と同じ英語名称を持つ生物学の形態学 (morphology in biology) とは似ないが、語形に関する知識が言語の特徴をはかる基準になれば生物学の形態学に似る。そうしたプロセスや、民族区分(一般には個人の自負が尊重されるので歴史上の推定のためには地理学 geography 人類学 anthropology 全般の知見も借りられる)に基づいた個別言語の分類は、生物学の分類学 (taxonomy in biology) に似る。死語・消滅言語 (dead, extinct language) の特徴を文献 (inscription, epigraph, folio; writing; cf. 化石 fossil) から把握したり、個々の単語の再建 (reconstruction) に及び、祖語の推定は古生物の復元にも通じる(古生物学 paleontology に似る古文書学 palaeography は即物的であるので基本的に言語学よりも考古学 archaeology の領域)。

現代の言語学は、いくらかの分野で発話における文法・音韻・プロソディ (prosody, 詩学の用語と同じく韻律と翻訳される) の特徴を把握するために実験を行うなどの姿勢が、認知科学・社会科学・自然科学の各分野の方法論に重なる。

※生成文法のノーム・チョムスキーさん Noam Chomsky は言語学を心理学(認知心理学 cognitive psychology のことか不明)の下位と考えたようである。彼の派閥の人 (A. George) は心理学を生物学・自然科学とみなしたうえで言語学を心理学・生物学の下位に入れるように主張する。「人間の生物学」という情報も出たが、英語でいう"human biology"のことか不明である。チョムスキーさんが導入した生成文法を研究する人たちであっても一枚岩でなく、チョムスキーさんが言語の文法について示した見解に批判や議論が生じるようでもある (cf. 西山 1998 で Chomsky派George, A. がKatz, J.を論難しようとした旨)。チョムスキーさんら言語学者たちがどれほど自然科学の概要を把握して何の前提に基づいてそう主張するか、私は知らず・論駁せずにいようと思ったが、ここまで記してチョムスキーさんと信奉者たちが持つ生物学の見解を調べ直そうと思う。チョムスキーさんが他にも示した普遍文法 (universal grammar, UG) という発想を神経科学から証明する酒井邦嘉さんの研究や、チョムスキーさんとも交流したマサチューセッツ工科大学 MIT Linguistics教授・宮川繁さんの統合仮説"integration hypothesis"2015年BBCの特集でも彼の名が載る)を調べてみてもよい。MIT博士号(言語学)を持つ福井直樹さんも「自然科学としての言語学」と題する著作 (4469212652) を出している。要するに言語能力の先天性から人間に普遍的な文法というものが想定され、後天的に日本語や英語など(普遍文法と個別言語の関係にはパラメーター parameters が想定されるという)を幼児が言語獲得(first-language acquisition)に至るということであり、一理ある。しかし、先天性を引き合いに出すならば、日本人は日本人限りの遺伝性で英語の習得には音韻・文法とも遅延があろう(i.e. 民族ごとに遺伝される内容・生得的な言語能力に微妙な差異がある)と私は思う。反対の目線での研究も大事である。無論、私の姿勢が専門家からは雑駁に思われそうでも、私は何の専門家でもないから色々な観点で物事を考えて党派に属さなかろう。

以上、端的に示しておいたことは、言語学が扱う言語関連の事物のどういった側面をどう研究するかにより、言語学の人文科学以外の特徴を示そうとしたものである。
実際に言語学の任意の分野の研究者が、以上で示された他学問の研究者と共同で・協同で研究を行う必要性は無いので、そのことのみ、注意されたい。

言語学の他の科学(=科学分野。加算・複数形)に通じる特徴が示されるならば、人文科学に関わる人々が他の科学に親しみを持てるようになると思うし、一般の民衆も身近な領域から「科学(不可算としてのScience)」を考えることができると思った。
言語学を「いわゆるカガク=リケー(理系・理科系)」として権威付けしたいわけではない。
インターネットで情報技術が普及したのであるから、一般人も言語のことぐらいはメディアリテラシーによって科学的に考察できてもよい。
上記のように科学も多種多様であるし、「基本的な科学の精神」と共に色々な観点で「言語・言葉(ゲンゴ・コトバ)」という客体を測ることができると思ってほしい。
他の科学も「同じ人間が行っている」ということで、パソコンや携帯電話(スマートフォン、情報端末)や身近な家電などを作るための高度な数学や機械工学や、遠くの天体を精密に観測するための天文学は身近に行えない(実際の製造や観測などは金銭がかかるし個人の趣味の範疇でも望ましくない)としても、心での風を止めて抵抗感を無くしてもらおう。



!以下から大々的に下書き (draft) 状態!
(記事投稿日時時点)


数学関連の学習(平方根・方程式など)
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%86%E3%82%B4%E3%83%AA:%E4%B8%AD%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E6%95%B0%E5%AD%A6
数学関連の学習(アレ関数など)
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E6%95%B0%E5%AD%A6
物理学と数学の関係
http://physics.thick.jp/index.html
理工系数学
https://risalc.info/index.html
情報処理関連
https://algorithm.joho.info/image-processing/binary-editor-stirling-bmp-file/



言語学に応用数学の技法を取り込む研究の案

筆者が少し中等教育数学を学びなおした上で提案しよう。
以下の案では、統計の手法や、関数・幾何学の知識などを取り込んで研究することになる。

統計的方法 (statistical methods) を言語学に取り込む発想くらいは、私でなくとも既に先行研究が多くあるのではないかと思ったが、2019年5月までに私は一度も見たことが無かった。
せいぜい歴史言語学や語用論のためのコーパス言語学の範疇で、言語の用例を任意の範囲内の文献(小さな研究目的に相応)から探して定量的に提示するようなものが見られる程度であった。
統計的方法を言語学に取り込むことは、学問分野でいうと数理言語学 (mathematical linguistics) の下位・副分野 (sub-descipline) としての「計量言語学 (quantitative linguistics, QL) 」になるかと思う。
亜種には「計量比較言語学 (quantitative comparative linguistics) 」もあるが、当記事で以下から示す「硬口蓋化指数」は比較言語学の歴史言語学的な目的に限らないため、その領域の内外に跨るものかと思う。
他には「計算言語学 (またはコンピュータ言語学 computational linguistics)」もあり、理工系の「自然言語処理 (natural language processing, NLP)」に関わりのあるものとして当記事で便宜的に区別をしたい。

関数や幾何学の知識を言語学に取り込む発想は、私の脳内で「数理言語学 (mathematical linguistics) と呼ばれるに値する」と思っていたが、当記事の執筆に際して色々と調べなおすと、学問分野の区別が一般的には不明瞭であるようであったし、便宜的に数理言語学と呼ぶしかない。
幾何言語学・幾何学的言語学という呼び方もあろう。



硬口蓋化指数 (?)
※そもそも日本で応用的な分野に用いられる「指標」に関する意味の「~指数 (shisū)」とは、英語でいうと何か?「指数関数 exponent function」という時のそれでない。「知能指数 intelligence quotient」の"quotient"は、割り算の解の整数部である「商 quotient (e.g. 20 ÷ 6 = 3 あまり 2 は a / b = q... r と代数にして 3 = qに相当する)」と同じ言葉である。「ボディマス指数 the body mass index, BMI」 "EPI, Environmental Performance Index"などは"index"と称し、計算方法が明らかに知能指数と異なる。他に、"** scale"や"** score"などの名称で社会や医療の考察対象である事象が数値化されることは多いので、どういうものがあるか色々と探して知見を得る必要がある。

「硬口蓋化 (palatalization@ alt. 口蓋化)」は、任意の言語の古形とその後世の形とで相対的に見られる子音の変化現象である。
代表例はティ /ti/ →チ・シ /chi, shi/のような歯擦音化 (assibilation, alt. spirantization, fricativization) であるが、他にも多様な変化がある。
言語ごとに、具体的な子音の起点と終点の音価の異なりがあるし、時代差もある。
硬口蓋系だとされる音自体も多様であり、単純に「硬口蓋化した子音 [ʲ]」とするもの(e.g. スラヴ語学でいう軟音ь 日本語の拗音のうちキャ行・ミャ行・リャ行の音)や、硬口蓋破裂音 [c] や、硬口蓋系の破擦音 [t͡ɕ] [t͡ʃ] など、様々に異なる特徴の子音を一様に硬口蓋系であるとか硬口蓋化であるとかと括ることもできる。

※なお、「音声学でいう硬口蓋化」と、「歴史言語学・音韻論でいう音変化 (sound change) としての硬口蓋化」は、定義が異なり、硬口蓋化指数でいう硬口蓋化が後者であることに注意されたい。前者=音声学でいう硬口蓋化はIPAにある [ʲ] が伴った子音のみを指す。日本語の拗音のうちミャ行の音はマ行に対比でき、スラヴ語学でいう軟音ьも硬音Ъに対比できる。後者=歴史的な音変化の現象に含まれる子音の範囲は必要に応じて広さがある(先述の通り・後に具体例を示す)。

硬口蓋化現象の終点側の歯擦音に限っても、「任意の地理的範囲の東と西」とで異なる音の傾向を持っていたりもする。
例えばチャ発音が歯茎硬口蓋音 [t͡ɕ] である漢字文化圏=日本/チ, ch/・中国/ㄐ, j/・朝鮮/ㅈ, j/とスラヴ語圏のロシア/ч/・ポーランド/ć/などに対し、後部歯茎音 [t͡ʃ] である現代インド=ヒンドゥスターニー・ベンガリと西ヨーロッパがある(主要な言語発音として言語学で承認があるものはそれらの地域で代表的にそうある。方言や他の言語には別の場合もある)。
言語に「東vs.西」という二項概念が適用できてしまう例、と私は考える。
こういった言語の傾向には歴史的な見地での解明が可能であるが、更に単純化する「物差し・メジャー measure」として「硬口蓋化指数」を開発することもできる、と私は思っている。



まず、「硬口蓋化」と想定される言語現象(音変化 sound change)について、私が想定する例を示す。
例の通り、一般的なIPA(国際音声記号)を付与し、音素表記 (phoneme) と音声表記 (phone 単音 音価) とを分ける。
特に断らない限り子音は無声音を示し、有声音の場合に「有声」という接頭語を用いる。
日本語の場合はそれ自体の言語発音を示すものと見るべきだが、西洋言語の場合に付されたカナは参考までに私が一般的な音写例を示したに過ぎないものと注意されたい。

ラテン文字の音素「C シー=スィー (現代語での名称はドイツ語ツェーなど破擦音も多い)」
古典ラテン語 [k] (軟口蓋破裂音)→ 現代イタリア語 [t͡ʃ] (後部歯茎破擦音) (ニワトリ擬声語由来の英語コック・チキン互換のch表記で見られる音変化), 現代フランス語・英語 [ʃ] (後部歯茎摩擦音), [s] (歯茎摩擦音)
単語例: -cia キア/ki.a/→チア/tʃi.a/・チャ/tʃa/(保留。イタリア語の例だとマイナーになりそう)→シア/ʃi.a/・シャ/ʃa/(ガリシア Galicia, オフィシャル official. それぞれラテン語での語源はGallaeci, Gallaecia; officialis, officia, officium 一般的に日本でカナ表記される語彙でないが一応→ガラエキアまたはガッラエキア、オッフィキアリスまたはオッフィキアーリス)
※オフィ office はオッフィキウム officium の類であるため、この例だが、その他に英語やフランス語に見られるス -ceは古典ラテン語-tia系 (e.g. Venetia, Venice; scientia, science) になるので後述。

日本語族の音素「か行い段=き」
音声としては標準的な日本語で [k] および [kʲ] (硬口蓋化軟口蓋破裂音。特に強めの硬口蓋化か。一説に硬口蓋摩擦音が続く [kç] も挙げられるが二重子音か破擦音か摩擦音化かどうか説明が無い)→恐らく琉球語派の一例で [t͡ɕ] (歯茎硬口蓋破擦音)
単語例:標準的な日本語 おなわ okinawa [o̞kʲina̠ɰᵝa̠] 琉球語派の一例 うなー ucinaa (uchinaa) /ʔut͡ɕinaː/ (英語版Wiktionary - 沖縄 に各言語のIPA表記例が載る)
※日本人は元来、前舌母音の音が前後にある際の無母音子音にイの音を付加してきたことがある。漢音「一色 いっしょく isshoku」に対する呉音「一色 いっしき isshiki」や、「節分 setsubun」に対する「お節 osechi」/setubun, oseti/(比較としてという漢字の中古音を参照。節の音素 /t/ は入声・閉音節・無子音)や、Graecia, Greece = グラエキア・グリース/guraekia, gurīsu/にあたる西洋言語の語句の音写「ギリシア・ギリシャ Girishia, Girisha」(イギリス Igirisu はその類例。ただし中国語か任意のアジア言語を介して日本で音写されたパターンであるならばそれらの言語も似た性質があったと考える必要がある)や、「マックス max, makkusu」に対する「マキシ maxi, makishi」などの単語に見られ(類例はtext テキスト・テクスト tekisuto, tekusuto, 反例は 呉音: ニク niku, 漢音: ジク jiku 漢字音は当然、現代の辞書に載るような一般的に継承された例のみを取った場合の話。過去に 中古音で任意の-ng韻が呉音-you, 漢音-ei韻となる場合の漢字音を頻繁にあげたそれも、 tangが当然のトウ=タウ tauではなくタイ taiとして當麻寺 当麻寺 Taima-deraになっていることなど中古日本語以前の例は探しても判断しづらい)、日本人が自覚できないくらい日常的に大量に使われる。これらは、原語で無母音子音の前後にある母音が日本語で前舌母音となるエ段・イ段 /e, i/ の音であるために [kʲ] (キャ kya の子音 /kj/)という硬口蓋化の音として受容したことが、古代から現代までの日本語での個別語句の借用の原初にあったと思う。借用のタイミングのことは歴史的な音変化との関連性が低いので、この例に含めない。「硬口蓋化指数」のためには余分になると判断する。

古代ギリシャ語に対する現代ギリシャ語の音素「Κ カッパ」 /k/
[k] (軟口蓋破裂音) → [c] (硬口蓋破裂音または [c̠] 後部硬口蓋破裂音)
単語例:Μακεδνός [mɐc̠e̞ˈðno̞s̠] (現代ギリシャ語は日本に借用語が少ないので英語版Wikipedia - Voiceless_palatal_stop#Post-palatalから引用した。単語は歴史学でマケドニアと関連付けられる「背が高い」という意味の形容詞だが現代ギリシャ語では一般に用いないと思われる。日本語のケの軟口蓋破裂音と異なる表記だが発音の例を聴くと同じように聴こえる。軟口蓋破裂音との違いを無理に見出すならば調音位置が軟口蓋よりも硬口蓋で発せられたようなチェの要素がわずかに感じられる。現代日本語ではキほどでなくもケが硬口蓋化しているように思えてある意味では現代ギリシャ語のκεと同じような音だと思う。気になるならば自分で発音しながら解剖学的に意識したり、日本語音声 [kʲe] と推定上純粋な軟口蓋音 [ke] とそのギリシャ語音声とをスペクトログラムで解析してフォルマントの特徴などを抽出すればよいがここでは詳述しない)

印欧祖語に近似する音価もあるケントゥム諸語に対するサンスクリット(パーリ語に共通して梵語)の硬口蓋 (tālavya, tālu) 阻害音系音素
[k] (軟口蓋破裂音)または[kʷ] (唇音化した軟口蓋破裂音)→ [t͡ɕ] (歯茎硬口蓋破擦音) [ɕ] (歯茎硬口蓋摩擦音) [d͡ʑ] (有声歯茎硬口蓋破擦音)
単語例:ラテン語クヮットゥオル quattuor(いわゆるクアトロ quatro)⇔梵語チャトゥル catur तुर्、 ラテン語ントゥム centum⇔梵語シャタン śataṃ तं (シャタ śata शत)、 古代ギリシャ語ギグノースコーγιγνώσκω(いわゆるグノーシス gnosis に関連)⇔梵語ジャーナーミ nāmi जानामि (辞書形3人称ジャーナーティ jānāti जानाति アージュニャー・アージニャー・アジナ・アジュナ・アジュニャーとカナ表記の定まらないヨーガ用語に関連) 過去記事参照@
※これに限らず、サンスクリットで反舌 (mūrdhan, mūrdhā) 摩擦音とされる音素 ṣa ष を持つ単語の一部が、相当するケントゥム諸語の単語によって印欧祖語での音素が *k, *kʷ と推定される。数詞の八・英単語エイト eight の同系であるギリシャ語ラテン語同系オト(オクトー) octo, ὀκτώ に対するアシュタ aṭa अष्ट、英語ドラゴン dragon の語源で動詞「見る」の派生語であるギリシャ語 δράκων (drákōn) に対するサンスクリット語根 dṛś दृश्  (当ブログでは仏教用語の見・ドリシュティ dṛṭi でおなじみ。この語根は硬口蓋系の摩擦音śa श で扱っていて実際の単語ではś + tの転結で反舌音化する現象により副次的ではある)がある。

ラテン文字の音素「T ティー (一部でZ字使用)」
[t](歯茎破裂音) → 何かの言語 [t͡ʃ] (後部歯茎破擦音) フランス語・英語 [ʃ] (後部歯茎摩擦音), [s] (歯茎摩擦音)
単語例:ダルマチア Dalmatia ・英語の犬種ダルメシアン Dalmatian とかを複数言語で調べてみよう@、古典ラテン語ナーティオー nātiō →俗語ナツィオ natio →イタリア語ナツィオーネ nazione, フランス語ナショorナスョ nation, 英語ネーション nation
※ウェネティア Venetia →ヴェネツィア Venezia例はイタリア語で歯茎破擦音 [t͡s] なので硬口蓋化の例でない(i.e. 歯擦音化のみ)。ただし英語のVenice, フランス語のVeniseは [s] (後者は [z]) に該当(過渡期・中英語が借用する元の言語=何らかのロマンス諸語のうち古フランス語などに硬口蓋系歯擦音か摩擦音だったと考えられる)。
他の単語例:多分RP英語で [t] tree (カタカナ英語でツリー) GAとしてのアメリカ英語tree [t̠ɹ̠̊˔ʷɪi̯] チュリー(複雑なIPA "t̠ɹ̠̊˔"は後部歯茎で調音されながらも非歯擦音としての破擦音であることを意味している。この単語GA発音の例では唇音化してさえもいてトゥルウィーと無理にカナ表記することも可能)
※英語の抽象名詞に見られる-ション -tion (根源はラテン語 -tio) については中英語の文献で-cionのようにC字を用いるなど、中英語が借用する元の言語=何らかのロマンス諸語のうち古フランス語やアングロ・ノルマン語などからして、摩擦音か破擦音への歯擦音化が既成事実化していたことを想定する。まさかとは思うが、t = /t/ が同じく破裂音である c = [k] に変化したという、基本的に言語学で観測されづらい現象は無かろう。

上代日本語と現代日本語の音素「た行い段=ち」
 [tʲ] (硬口蓋化した歯茎破裂音)→  [t͡ɕ] (歯茎硬口蓋破擦音)
単語例:上代日本語 *mititika 標準的な日本語 道 michi, 近い chikai 琉球語の宮古方言 mtsï or mcy むツtsïka or cyka ツカ (借用語などにあるティ/ti/やテュ/tyu/の類は硬口蓋化した歯茎破裂音 [tʲ] として解釈される)
※現代語に関する現象で「なんという nan to iu・なんていう nan te iu」や英語の"Did you..."が、硬口蓋系の破擦音「なんちゅー nanchū」や英語 [dɪdʒuː](近似カナ: ディヂュー)で発現することがある。反対に、ドイツ地名の外来語 (gairaigo) カナ表記「テュービンゲン tyūbingen(原語ではuウムラウト = ü が用いられる)」にあるような硬口蓋化子音 [tʲ] としての「なんてゅー nantyū」を大半の日本語話者は常用しない。連声(外連声・内連声)・連音・サンディ (sandhi) を古代から形式的に保持するサンスクリットにそういう種類のものは無くも、同系言語のパーリ語にはサンスクリットと同じ単語が硬口蓋系破擦音に変化したような単語が多い。それは2018-03-08記事に"satya"に対する"sacca"などを縷々と例示して説明される。先の日本語・英語の例にあるような、文法的な形態の連結の場合にサンスクリットやパーリ語で同様の現象があるかは定かでない。

中古音・漢字音の音素での硬口蓋化系 /Cj (Cʲ, CはConsonantの略)/
明、呉音ミャウ・ミョウ、漢音メイ、唐音ミン 中国語拼音ming 韓国語ラテン文字表記 revised romanization = 文化観光部2000年式でmyeongミョン@
※上古音ではlやrのような流音で二重子音を形成していたと推定される。
※「」と「」は現代中国語で"zhong"系であるものの、字音仮名遣いでは前者「ちやう/*tyau/」と後者「しゆ/*syu/ orしう/*siu/」に分かれる。これは広東語前者zung1後者zung2・韓国語前者jung 중後者jong 종・ベトナム語前者trung後者chủngを比較に用いれば、中古音ZZで前者/ʈɨuŋ/後者/t͡ɕɨoŋX/と推定されることが分かる。2017-05-21記事にも同じ趣旨が書かれる。中古音で硬口蓋系の破擦音であると分かるか硬口蓋系の響音・介音があると分かるか硬口蓋化 [ʲ] があると分かる、限りはこの例に含めない。もしそれ以前(日本・朝鮮・ベトナムなどに現代までの命脈を保っている借用がある以前や上古音)に硬口蓋系の音が子音部に無い限りはこの例に含めてよい(上古音は不確実の要素が多いが参考にしようという。例としてBS前者*truŋ-s後者*(mə-)toŋʔ-sで含める例=硬口蓋化の発生前に当たるように見える)。

中古音・漢字音の音素での硬口蓋鼻音系 /ɲ (nj)/
現代中国語普通話で拼音"r" /ʐ/ (有声反舌摩擦音or接近音) に相当し、朝鮮語で文化観光部2000年式"y" /j/ (硬口蓋接近音。ハングルで母音表記のみ)に相当し、広東語で粤拼"j" /j/ (硬口蓋接近音)に相当。e.g. 「 Hepburn: nyū (ニュウ:呉音), Pinyin: róu (ゾウorロウ), revised: yu (ユ), Viet: nhu (ニュ), Jyutping: jau4 (ヤウ)」 「 Hepburn: ni (ニ:呉音), Pinyin: èr (アーorアル), revised: i (イ), Viet: nhị (ニ), Jyutping: ji6 (イorイィ)」 「 Hepburn: nen (ネン:呉音), Pinyin: rán (ザンorラン), revised: yeon (ヤンorヨン), Viet: nhiên (ニェン), Jyutping: jin4 (インorイィン)」 @

中古音・漢字音の音素での軟口蓋鼻音系 /ŋ (語頭に限るng)/
日本語カナでガ行音素に相当、現代中国語普通話と朝鮮語で無子音(ゼロ、ヌル。ハングル字母でㅇ)に相当するが、一部が普通話で拼音 /y/(硬口蓋接近音)に相当、ベトナム語と広東語で軟口蓋鼻音の音素に相当。e.g. 「 Hepburn: ga (ガ), Pinyin: wǒ (ウォー), revised: o (オ), Viet: ngã (ガorア), Jyutping: ngo5 (ゴーorオー)」 「 Hepburn: ge (ゲ:呉音), Pinyin: yá (ヤー), revised: a (ア), Viet: nha, ngà (ニャ・ガorア), Jyutping: ngaa4 (ガーorアー)」@






以上に見るように、硬口蓋化は多様である。
基本的な原因としては、単語例に見られるように阻害音系の子音にエ /e/ やイ /i/ のような前舌母音 (front vowels) が付いたCV構成の発音が主要である。
それに種々の間接的な原因=条件 (conditions) があるものとして、私は思考を重ねた。

多様な「硬口蓋化」の歴史的な条件と発生時期について、2019年3月ころに指数を求める発想があった。
その指数は、日本語族の日本語と琉球系の一言語・ロマンス諸語のフランス語とイタリア語・サンスクリット・朝鮮語・中古音の一系統から現代普通話の中国語漢字音など、各々のために個別に決定されることになる。
値が近似する言語どうしは硬口蓋化に代表される音変化の特徴が似ていると判断する。
その指数を求めるための基準に以下を私は想定する。

・硬口蓋化の起点 (e.g. [k], [t]) や終点 (e.g. [t͡ɕ], [ʃ]) など種々の子音の発音に必要なエネルギー量
 「エネルギー量」は、参考までにアフリカの言語のうちでもナミビアあたりにいる民族が用いるコイサン諸語で常用される「吸着音"click consonants"」を考察するとよい。文明的な国では古代でも現代でも、それが言語音声の弁別に用いられたという証拠が無いが、アフリカの部族・民族の一部では日常的に用いられているという、このような二分法が可能である。アフリカがHomo sapiens sapiensの起源を持つこと・原始人が狩猟採集をしていたことなどと、その部族・民族の生活が一致しているので言語も原始的な特徴を持つと考えるかもしれないが、「吸着音は最古層の言語音声だ」と結論付ければ早計である。私はその物質的な証拠を何も認知しない。また、生物の進化の多様性は各々の必要な時間をかけて成り立ってきたことからして(ダーウィン進化論についてしばしば言われる話)、言語の多様性もそういう過程から各言語の個性が成り立ったろう。アフリカの狩猟採集の部族・民族もまた、その個性が一定の時間をかけて成り立った可能性 (i.e. 子音強化 fortition) がある。現代日本人である筆者は、吸着音がとてもエネルギー使用の大きい子音発音だと思うが、それで最も古代の言語の特徴であると断定しづらい。とりあえず、エネルギー量の大小は、大まかに吸着音≧破裂音>破擦音>摩擦音>接近音のように想定されると付記する。無論、今に列挙されて最もエネルギー量が少ないと見られる接近音も、多くの言語話者にとって歯茎系の破裂音・破擦音よりも接近音 [ɹ] の発音が困難とされるならば、解剖学的・生理学的な構造にその原因があり、実際に力学的にも調音器官を動かす際に話者ごとの余分なエネルギー使用が発生するので、あくまでも任意の調音点における任意の調音器官による各種調音方法の子音を機械的に発音した際の想定である。

・時期ごとにおける異言語との接触

・食品の軟化または硬化(e.g. ある採集狩猟民が固い木の実・草・生肉を食べていたが農耕が定着して調理技術が進んでからはご飯 coocked rice, grain, cereals やパン bread を食べるようになった)が発生した後にその継続によって変化した歯列・骨格による発音能力
 2018年3月8日の記事末尾 https://lesbophilia.blogspot.com/2018/03/fricativization.html#artifoot で説明済み。「人間の文明は裕福となり、数万年前~数千年前の人類が硬い肉や木の実や穀物を食べていたことに比して食肉も果実も穀物もみな柔らかくなっているし、現代は様々な機械音(エンジン音や動作音)・電子音(シンプルな波形など)・人工的音声を聴覚的に受けてもいる。人の顎と歯が退化し、舌などの機能が弱まり、聴覚的に人工的な音声を多く聴くといった因縁(感受・認識・経験・定着)のある現代文明の条件下であれば、その果報が相応に発生するということである」といい、仏教の因縁観を援用して認知科学・神経科学の趣旨を説いている。

これらの条件や判断材料も数値化・整理する必要があるので、実現のためには非常に多彩な分野の情報や多くの研究者の共同作業を要すると思う。
それで硬口蓋化指数とされる何かを作ることができても、学問的にその確実性を得られるかは定かでない。
一応、この硬口蓋化指数を用いることで言語における様々な音変化や民族の遺伝的形質の変化などを推定することが私の期待である。
分子人類学や遺伝学で究明されるべき「民族」(mtDNA, Y-DNAハプログループとかの何らかの範疇を拡げて通念上の日本人<東アジア人種などの領域で想定)ごとの言語の特徴(最適性理論に関連)も、歴史的・社会的な経緯で徐々に形成されたか、生理学的な特徴(調音位置・調音方法が人体の形質や脳・神経の機能の傾向に依存する)から進化論的に形成されたか、硬口蓋化指数が手掛かりになると期待する。

硬口蓋化によって破裂音の特性が変わったり、破擦音・摩擦音になるということ(更にはジャ・シャ系統が硬口蓋接近音としてのヤ [ja] になるか一言語の古い文献ではその異言語の似た系統の音 like as [ʝa] を/ja/で記録するような場合もあること)は確かに承認されるが、そのようなものは「子音弱化 lenition」であって反対に「子音強化 fortition」も言語によっては存在する。
子音強化は、歴史的な音変化よりも異言語間の借用語に見られ、特に文明の発達の度合いが高いものから低いものへ借用があった際に多く見られる。
これも私がその概念名称を知る以前に、(借用の起点と終点)「パーリ語とタイ語」、「漢字中古音とベトナム語」、「西洋言語と朝鮮語」を引き合いに出して2018年3月8日の記事末尾 https://lesbophilia.blogspot.com/2018/03/fricativization.html#artifoot で説明済みであるため、参照されたい。
英語版Wikipedia記事 - Fortition (oldid=892797175)には「スコットランド語・ラテン語・英語などとスコットランドゲール語 Scottish Gaelic」の例が挙げられる。



ここまで綴られ、読者がこれを読み、「硬口蓋化指数とは何を表現したいか?」と疑問に思うかもしれない。
硬口蓋化指数という名で、色々と考えられた。
1. 硬口蓋化という音変化が現代語に見られる結果の量的表示
2. 硬口蓋子音および近似する子音の現代語における微細な弁別(e.g. キ・チの弁別、ニのような硬口蓋系の鼻音と目された中古音漢字が日本語呉音とベトナム語では維持されるが中国語普通話と韓国語では維持されていない)の量的表示
3. 硬口蓋化の原因となる民族的特徴(遺伝学・分子人類学・形質・病理など)の量的表示
4. 硬口蓋化の原因となる文化的背景(食事・言語接触など)の量的表示

これらを全て数量化してから総合的な硬口蓋化指数を作るべきであろうか・・・、発想当時のアイデアがいつの間にか不明瞭になっている。
どうぞ天才学者さんで興味をお持ちの方が仕上げればよろしうございます。
2を調べるには、大学所属の学者の常套手段で世界各地出身の学生たち数百人を臨床試験に用いるなどすればよろしうございます。



概念図(抽出図)であっても、その日本語族・ロマンス諸語・サンスクリット・中国漢字音・朝鮮語などの個別の指数をチャートにして示す@



科学的な母音表 (scientific vowel chart) を自然科学の手法で生み出す案

生成音韻論 (generative phonology) と実験音声学 (experimental phonetics) の統合は言語音声研究における課題と考えられるようである。
生成音韻論における「弁別素性(distinctive feature または弁別的素性)」では、何かしらの基準に対してプラス + マイナス - を振るような発想が1960年代からあるが、未だ定説を見ないようである。
個人的にも、例えば「日本語の無声破裂音/k, t, p/は常に少ない有気音"aspirated consonants"の特徴で発せられる(音素としては有気音・無気音の弁別が無いが有気音を弁別する言語にとって無気音に置換できる)」と言うとき、その言語音声の具体的な一例(/ka/ 1モーラのみ)を、現代英語ネイティブスピーカー(彼らは語頭でアクセントある破裂音を有気音で発する)にはアクセントのある音節だと認知する者とそうでない者とがいたり、朝鮮人には有気音=激音(격음 またはコセンソリ 거센소리)として認知する者とそうでない者とがいると仮定する場合、音声学の立場では、日本語の破裂音の音素は無気音とも有気音とも確定しづらい側面がある。
弁別素性では、「日本語の破裂音の具体例」が有気音であるかどうかを、[+/− spread glottis] で判断すると思う(i.e. 日本語の破裂音は [+ spread glottis])。
言語音声を通言語的に識別するにも、弁別素性で +, - の二分法だけでは通じないかもしれない、と私は思っている。
もし、認知に関することよりも客観的な調音部の運動などを基準とするならば、私が彼らの論点を捉えていなくて弁別素性を考え直すことができない。
とはいえ、「日本語の破裂音の有気音としての特徴の多寡」のような微量の差異も学術的に名称のある場合がある(後述の母音にて詳述)し、やはり+, - の二分法だけでは言語音声の分類に課題が残ると思ってよい。

弁別素性・生成音韻論という、言語学のうちの一分野に貢献できるか不明であるが、本論に入ろう。
実験音声学の解剖学的な方法論 (調音音声学 articulatory phonetics) のみならず、音響学的な方法論 (音響音声学 acoustic phonetics) で示された「フォルマント (formants; F1, F2, 必要によってF3)」の発想から、新たに同様の通言語的な設計を生み出しえる。
ここでは、母音に限って説明をしよう。

現代の音声学などで母音を示す際に用いられる「母音表 (vowel chart)」は、左に前舌母音・右に後舌母音、上に狭母音・下に広母音の基準を有し、右辺が垂直の線で左辺が上辺から下辺へ狭まる斜線で構成された四辺形で示されている(言い換え→四辺形ABCDで辺CDが垂直・辺ABが辺ADから辺BCへ狭まって伸びる斜線で構成されている)。
母音の区分には、その前舌・後舌や、口の広さ=狭・広(舌の高低)以外にも、唇の円さ=円唇・非円唇があり、それについては四辺形上の点の左を非円唇・右を円唇として区別する。
これは一般的な言語の母音を詳細に示す手段のうちでも基本的であり、調音の条件や骨格などによる制約を上手く捉えている。
しかし、日本語のウの音の微妙加減、エ・オの広さの中間具合などは、基本的なうちに含まれず、更に詳しい説明やIPAの補助記号を用いるなどして示す必要がある。

立体図形と母音の点と座標の値を示した画像

立体図形と母音の点と座標の値を示した画像。背景黒で線だけの立体図形に [u] X=63狭, Y=63後舌, Z=-64円唇 有声音である黄色の点を示す。[a] や [i] や 日本語ウも示す@

既存の母音表以外を基盤する場合は左右対称6角形を立体化するなど代案がある@

コンピューターの技術が日常的に用いられる人においては、やはり立体図形とその座標で、母音の特徴を数値化して示すことが、容易に想像できよう。
すなわち、既存の母音表の特性を生かしながら、判断基準すべてを数量化してしまい、X, Y, Zに配当して立体化する(その四辺形に奥行きを付ける)。
そこに個別の母音の位置を点で示すことで、あらゆる言語の母音を「構造的に(近代言語学・哲学のような言い方。構造主義的に structural。または生成的に generative)」示すことができる。
点にはX, Y, Zの座標の数値が示され、IPAで近似する記号を表示できる。
なお、無声母音"devoiced vowel, voiceless vowel" (e.g. ささやき声や日本語の語末ウ音 [u̥]) や、鼻母音"nasal vowel" (e.g. 日本語の撥音/N/の前で発せられる鼻音化した母音) を表現したいときには、これらを別次元に扱って表記する方法もある(普通の点を任意の色の円として無声母音や鼻母音の点を他の図形とするか色彩を変えるなど)。

このような考え方が、当ブログの2019年4月6日投稿記事に示されていた。
https://lesbophilia.blogspot.com/2019/04/symphonedy-vowel-pitch.html

単母音"monophthongs"は以上のようであり、二重母音"diphthongs"の場合は通常の母音表だと矢印直線で起点から終点を指している。
これもそのまま図形の中で再現できるであろうし、直線でなく適宜に曲線(後述の音声合成関連で生理学的・力学的な理由に基づく cf. 非ユークリッド幾何学のような曲がった直線。平面図形の世界地図上の直線と地球儀準拠の世界地図の曲線)を用いても可能と思う。

さしずめ、ノーム・チョムスキーの生成文法のようなモデルを母音表に反映したものと言おう。
こうしてチョムスキーさんの派閥の人が行う「生成音韻論」の「弁別素性」も、母音に限っては音響音声学・実験音声学の知見を加味して考察できるであろう。
そう思ったが、彼らの論点と、この研究とにはあまり関連性が無いかもしれない。
何かの発想に繋がればよいと思う。

言語学者たちの想像する言語音声のうち、母音のみであれば、これで自由に特性を示しえる。
これはまた、科学的絶対性にもならっている。
是非とも、いわゆる理工系の人に音声学(IPA, 調音位置・調音方法とその音響的発現)を学んでもらうことで音声合成技術の作成に役立ててもらいたいと思う。
この立体図形上の任意の点に対応した音声を、音声合成技術で簡単に出力できる発想もある。
※音声合成技術と音声学の知見の関連は、あまり公表されないが、管見の限りでは神経科学分野の福祉の方面で実用が考えられている(cf. AIに言語発音とその発話の脳の電気信号の関係性を学習させて音声合成を行うUCSFの Chang Labによる技術)。自立的な歌手とハイテク系シンガーソングライターが作編曲する場合やDAWを用いる音楽家がボーカルを扱う場合やボーカルのインストゥルメントのデータ(VSTi, SoundFont, 日本のアマチュア界隈で主流の歌声合成・歌唱合成ソフト関係)を作成する場合などにも多かれ少なかれ音声学の見解が借りられてもいる。

無論、人間の一般的な言語・自然言語で用いられない母音(無用なもの)をも発生させることになるが、もし生身の人間および言語学者に区別できない限りでは、何も問題の無いことである。
地球の座標 (geographical coordinates) も、単なる海面を指すことがあるのと同じで、直ちに問題とはならない。
考え直せば、人間の母音もまた自覚的・意識的に発せられたり聴かれたりすることは、人間の生物学的な知覚システムのために排除されているわけで、改めて科学的絶対性に近づけた見地では、発音の一時的な微細な区別を知ることになる。
無論、母音表の立体図形をコンピューターのソフトウェアで表示する際、点を置くことが可能な位置の数を限定すれば、特に学問的に実用的な範囲での使用も可能になる。

最先端の科学研究や技術開発でタブーな話題は「その研究題材や成果が直ちに役立つか・実用的か」ということである。
何らかの人にとってくだらないように思えても、そのように発明されたものが後々の研究や技術開発に役立つような事例を科学史から学んでいる人には、の研究の意義の有無を問うことが、科学自体の意義の有無を問うことであると分かるかと思う。
ましてや私は在野の研究者で、公費による支援は無いし、日頃の個人的な生活の時間が研究に傾けられるのみである。
そういうわけで、研究意欲のある人が可能な限りに色々と素敵な研究ができることを、在野の研究者である私は心で応援している。



少し話を変えるが、日本語の母音のウの音についての音素的認識が共有された日本人の間では、同じような音響的特徴を示現するであろう。
同じ狭母音のイの音でも、より広いアの音でもエの音でもオの音でも、音素的認識が共有される限りには同じような音響的特徴を持っている音であろう。
それは言語獲得が済んだ10歳程度の子供から、成人男性・成人女性にいたる多くの人で、彼らがウの母音を認知したり発音したりする場合も平等であろう。
声のオクターブ的な違い=人それぞれの基調となる声色を問わず、一般的な母音は固定的な特徴がその相対性のうちに示されている。
言い換えれば、母音の同一性とは、そのように固定的な特徴を言うことができる。

これも私が思う数学的な考察の仕方で示しえる。
第一フォルマント F1 と第二フォルマント F2を求めて長方形(四辺形の一種)のX方向とY方向の長さとし、それを言語獲得が済んだ10歳程度の子供から、成人男性・成人女性にいたる多くの人の発音標本から作製する。
それは数学でいう「相似 (similar, similarity)」として等しい幾何学的特徴を持つことになる。
ウの音にはウの音の長方形ができ、イの音にはイの音の長方形ができ、アの音にはアの音の長方形ができ、それが日本人の老若男女に共有されると考える。
数学や幾何学の形式科学の特性を言語の音韻論に適用した場合にそうであって、自然言語・音声言語の事実としてもそうであると言いたいわけでない。

他にも、X軸上にF1とF2との差を点にして置き、Y軸上に一個体の標本の標準的な声色のピッチ(音の高さ)を並べてみても面白い。
それでウの音とイの音とアの音は、それぞれ一次関数のような線としてX, Yの図に顕現する。
・・・、実際にどうなるかはともかく、何か数学的な発想を音声学に取り入れるための思考訓練として、こういった考えをしても面白いと思っている。




言語数理モデルの他の例示 (10月2日追記)

アナグラム (anagram) に近い形で何かしらの言葉遊び (word play) に役立つ指標を考えることがあった。
骨組みに:
①現代日本人の言語感覚によくある「複数の単語間または一単語を基準にした他の単語との文字列の一致度」
②ヨーロッパ広域(歴史的文献では中国を含む)で典型的な押韻
③音声学的な調音位置・調音方法の近似
などを含む。
個人的な作詞や言葉遊びの領域で、それらが骨組みの未完成な指標が少し利用される程度であり、今までに言及しないでいた。

上記のうち、一般的な類例は無いか?
①に近いものでレーベンシュタイン距離 (Levenshtein distance, edit distance) というものがある。
これはあくまでも情報理論 (information theory) に関連した歴史的経緯から成立した文字列の測定基準であり、様々な情報技術分野で便利に応用される・初歩的なスキルとして用いられる。
これだけだと、言語の系統に限らず数字に適用され、パズル的でもある。その方面で、ハミング距離 (Hamming distance) も重要にある。
回数の制約などのマイナーチェンジには「ダメラウ・レーベンシュタイン距離 Damerau–Levenshtein distance」があり、スペルチェックをはじめとした自然言語処理に寄与する。
私であっても、日記メモの編集行為・プログラミング言語の使用・バイナリエディタの使用などから、効率性を考慮する過程でそのような測定基準を脳内に持つことはあった。
③には何かしらの言語音声アルゴリズム (phonetic algorithm) が適用できる。
とはいえ、近似的であるから、私が求めるようなものは可能な限り私の方で考え、その後に比較・対象行為が行われよう。

改めて2019年10月2日に、この方面で参考までに知るべきことを知ったので、当記事に補足する。






起草日: 20190527

起草日とその翌日に草案として11,000文字程度を書いた。
その時に「思考が混乱しそうである。しばらくこの記事の話題を保留にして既存の美術・音楽・学術の作業に戻らねばならない。それから1か月間でも1年間でもじっくりとこの記事の話題に取り組もう」と考えた。

言語学に当記事で示したような応用数学の手法を取り入れる案は、言語学が人文科学である伝統と手法を、研究者の意識から埋没させるかもしれないことに注意したい。
自然科学で応用数学の手法を取り入れて成功しているようなことは、扱いが悪いと大きな失敗を招くかもしれないし、浅学である私は特に注意したい。
「人文科学である伝統と手法」はすでに示したような18~19世紀における印欧語の比較言語学・歴史言語学や印欧祖語の再建などに代表される分野の研究史と研究行為を指す。
20世紀後半から言語学の現代的な発展・多様化が顕著となるにつれて様々な方法論が学際的に用いられたり、開発されたりしたが、「人文科学である伝統と手法」無くしてはそれらも無かろう。
実例としては、2019年5月16日投稿記事に示された「2019年、アメリカの研究機関UCSF Chang LabのチームがAIに言語発音とその発話の脳の電気信号の関係性を学習させて音声合成を行う技術の報告をした。彼らに音声学の専門家が関与せずとも音声学の知見が用いられた」ことである。
英語の音素・音価に関して国際音声記号 (IPA) を用いる手法などが、神経科学の医療的な技術開発でも見られるという。
音声波形・スペクトログラムの利用は音声学(音響・実験)の手法であるとしても知見とは異なろう。
この実例は言語学の外であり、広い言語学のうちではなおさら「人文科学である伝統と手法」が活かされている。



2019年7月から数学関連の学習として最低でも中等教育レベルを行った上で当記事を投稿する予定であったが、絵や音楽に関連する作業と調査(個人的な興味として地理・気候・植生などもある)に追われて、全く実現されなかった。
言語学への関心も遠のいてしまったので、この記事は2019年8月10日現在、明らかに下書き状態の範囲が広い。
7月20日~8月9日の20日間には、100文字も加筆編集できなかったろう。


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しかし、当ブログ開設以来5年間に一度もそのような利用がされませんでした(e.g. article-20170125, article-20170315, article-20190406)。
よって、2019年5月12日からコメントを受け付けなくしました。
あしからず。

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